「ねえねえ聞いて!」
「あー?」
ゆさゆさと肩を揺すれば、面倒臭そうに聞き返す亮。
冷たすぎるったらないわ!なんてちょっと拗ねてみたところで、結局視線を戻してくれそうにないんだから仕方ない。
こんなやりとりにはもう慣れっこなんだから、なんて、拳を握った。
そしてそのまま亮の頬へスパーキング!
「なっくるっ!!」
「おいこっち向け」
「いや、おせーよ言うのが!!」
そんなの亮がこっちを向かないのが悪い。人と話す時は相手の目を見てって先生に教わらなかったのか。
そもそもどれ程愛らしく頼んだって、こっちを向いてくれた試しだってないっていうのに。私の選択は実に賢明だった。
しかしまあ、それをこのテニス馬鹿に言ったところで理解なんて出来そうもないみたいで、まったく馬鹿は困る。
え?理不尽だって?…よくそんな言葉知ってたね。見直した。ご褒美にエロ本買ってやろうか?
そう言えば飛んできたのは亮のパンツだった。
…おまえ…。
「お前には恥じらいというものが欠落している」
「ほんの数秒前にパンツ投げてきたやつがよく言えたな」
「バッ!あ、あれはお前、パンツじゃねえよ」
「見苦しすぎるんだけど。あれをパンツと呼ばずに何と呼ぶ」
「…い、イッツアトイレットペーパー!」
「そうなんだ。じゃあ私今うんこしたいからこのトイレットペーパー借りるね」
「嘘嘘嘘!!それ実は幻の装備なんだ!」
「うん、まあファンの子にとっちゃあ、一応幻の装備なんだろうけど」
「だろ?」
「山田くん、宍戸さんの座布団全部持ってって!」
くだらねえ、なんて。そんなくだらない毎日が一番幸せだというのに。
私がそう言うと、なにポエマーみたいなこと、と亮は呆れた顔で笑ってみせた。
あ、そうそう。それで思い出したよ。用件なんだけどね?
「素晴らしい小説を読んだんだ」
「……、テニス部の連絡じゃねーのかよ」
「え?違うよ?なんで休日まで部活の話しなきゃなんないの」
「いや、マネージャーだろーよ、お前は」
「そうだけど、それ以前に亮の幼馴染でもあるからね?」
「…幼馴染と小説、何が関係あるんだよ」
「くだらない話が出来る」
「死ねよ」
なんて酷い!幼馴染なんて言ったら、それ以外に使い道などないというのに!
私がそう言えば、お前の方が酷ェよ。俺をなんだと思ってんだ。って私を小突いた。なにそれカッコイイとか思ってんの?
「思ってねーよ!!どこにそんな要素があった!!」
「いや、軽く小突くってとこ。そういやこないだ貸した少女漫画にそんなシーンがあったような?」
「な、なかったけど!?つーかそんなん意識してねーし!!」
「へーしてんだ。俺カッコイイとか思ってんだ。死ねよ」
「思ってねえって言ってんだろーがァアアア!!!」
本当は思ってるくせに。ていうかお前は何しても格好良くはならないよ。
だってこの前ファンの子たちが言ってたんだ。
宍戸くんってどう頑張っても格好良くなれないところがいいよねー。
うんうん寧ろダサすぎてイタい感じがいい。
…って。…あ、なんか私が泣きそう。なにこの感じ。
「ちょ、もうそういうのやめろよ…。泣きそうになんだろ」
「そうだね。私もなんか…、あの…、…大丈夫だから!亮かっこいいよ!」
「ヘタクソな慰め方すんじゃねえよ。余計泣きそうだ」
「ごめんごめん。でもまあ仕方ないよね。亮は漫画に出てくるヒーローって感じじゃないもん」
そう言うと、亮はムスッとしながら、それもかよ?なんて私の手元の小説を指差した。
まったく言葉が足りないな。なんて思いながら、それもヒーローが出てくる話なのか?ってことなんだろうと理解する。
うん、そうだよ。ヒーローっていうより王子様。まるで英国や仏国のようなお話で、この雰囲気が乙女を魅了するんだよ。
「へえ、そうかよ」
「なに拗ねてんの?間違ってもお前はこれにはなれないよ?遺伝子レベルから組み替えないと」
「うるせェエエ!!知ってるわァアアア!!!」
「なんだ、よかった。あ、そう、それでね?このラストなんだけど、話の流れもよくって最高のクライマックスなんだよ」
「…なんだこれ。おとぎ話かよ?」
「そうそれ!」
「は?」
「そのおとぎ話みたいなところがいいんだって!」
「…あー、そう」
くだらなさそうに目を半分伏せながら、どうも機嫌がよろしくないようで。
それでも構わず続けようとする私を遮るかのように、つけっ放しだったテレビから除夜の鐘が鳴り出した。
あれれ?もうそんな時間?
「もうすぐカウントダウン始まるんじゃね?」
「早いねー」
「つーかお前、おばさん心配しねえの?」
「亮ん家行くって言ってあるし、ていうか下にいるんじゃないの?」
「いるのかよ」
「あ、亮!」
「あ?」
「よいお年を!」
「…今言うのか?」
「そうだよ?今こそ言うべき言葉だよ?」
「…なんで新年一発目にお前を見なきゃいけないんだよ。毎年毎年最悪なんだけど。今すぐお前をテレポートしてえ」
「今すぐお前をあの世にテレポートしてやろうか」
「ごめんね?ちゃん」
宍戸がぶりっこしながら謝れば、ああなんてくだらないなんて2人して笑ったり。
新年最初に見る人が宍戸なのが妙に安心してしっくりきて。私って実は宍戸離れができてないんじゃないのか、とか、それこそくだらない。
「あ、カウントダウン」
「…あーあ。一足遅かったな」
「えー、なにこの感じ。こんな冷めた新年の迎え方なんて望んでないよ!」
「ガキかよ」
「人はね、いくつになっても童心を忘れちゃいけないの。乾くだけが大人じゃないのよ」
「誰だよお前」
「今私格好良くなかった?」
「全然」
「うわー。新年早々うざいよ。初うざい」
「その初″ってつけんのやめろ」
「あ!あけおめー」
「聞けよ!」
こたつに入りながらあっけない新年を迎えて、それでもやっぱり乙女ってやつは願いたくなるものでさ。
あーあ!恋よ来い!素敵なのだけ!なんつって。
ダジャレかよって突っ込みなんか聞かないよ。
「あれ?亮?なんで黙んの?つっこみ無視したから?」
「…………、別に」
「沈黙が長いよ。なに、なんなの?あ、みかん全部食っちゃったから?」
「べつ…、……はあああああ!!?全部!?俺のは!?」
「ないよ」
「死ねよお前ェエエエ!!!」
元気が出てよかったよ、といえば、もう喋んなって言われた。え、まじで?
なんで新年早々そんなにピリピリしてるのかよ〜!なんてちょっとうざめに声を掛ける。
すると亮は、どうせ俺は格好良くなんてなれねーよって。え?なりたかったの?無理だよ?
「テメー!!!」
「本当のことだもの。仕方ないものな〜」
「やめろその喋り方!!」
亮の突っ込みに思わずふふふって笑ってしまって、そしたらあんなに怒った顔してた亮まで、呆れたように笑っちゃって。
私、亮のこの顔が一番好きだなーとか思ってしまったのは、新年マジックというやつだと思うんだ。なんてね。
馬鹿でヘタレで格好悪くって、あーあ、仕方ないなあって。これは所謂私の負けってやつだ。
「…亮、亮!」
「なんだよ」
「毎年毎年、なんで亮に会いに来ると思う?」
「!!!」
そう、だからこれが所謂
「…1回しか言わねーから、ちゃんと聞いとけよ」
「この荒地で
幾年先も
君を待つ!」
亮思いってやつなのだ。なんてね。
あとがき
何年かかってるんだって話ですよ。
やっと一発目のリクが消化できました。
年末ってことで年末年始の話にしてみましたがどうでしょうか?
つーかマネ設定を利用できていないこの感じ。
すみませんでした!
咲夜さまに捧げます。
20101228 麦銀
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